事業内容

佐渡葺き

佐渡の茅葺きの名称と特徴

佐渡では茅葺き屋根のことを「クズヤ」や「クズ屋根」と呼んでいます。正確な由来はあまりよくわかっていませんが、一説には粗末な屋根の意もあったと言われています。
佐渡では屋根を部分ごとに分け、平面前を「マエノコウ」、平面後ろを「ウシロノコウ」、妻面を「オウギノマ」と呼びます。ほかには屋根の流れを「ノボリ」、蓑甲を「オガミ」、隅を「スマ」、軒を「ハグチ」と呼びます。
佐渡の茅葺きの特徴は棟にあります。佐渡の棟は一般には「笄棟」という棟に分類されますが、これは新潟県で見ると非常に珍しいです。笄棟の分類の中で一番有名なのは世界遺産である「白川郷」ですが見た目があまりにも異なるため認知度は低いです。そうとは言え、棟の納め方の原理は佐渡も白川郷も同じです。
次に技術的な特徴として「針取り」があります。一般的に針取りは屋根の表と裏の2人で行いますが、佐渡の一部の職人はこれを特殊な道具を用いて表の1人だけで行います。この技術のルーツは新潟の寺泊にあり、佐渡以外のほかの土地にも派生したと言われますが、現在この技術を用いて針取りを行う職人は全国的に見ても非常に少なく、現在でもこの針取りを行うことが出来る佐渡の職人は貴重です。

材料

材料はカヤ、ヨシ、アシ、稲わら、麦わら、オガラ、チョマなど様々な植物を組み合わせて屋根を葺いていました。
カヤとは「ススキ」のことで屋根の大部分はこのカヤで葺かれました。
ヨシとアシは「ヨシ」と「オギ」のことで、一般的にはアシはヨシの別名ですが、佐渡ではオギのことをアシと呼んでいます。ヨシは主として使うことは少ないですが、カヤとヨシを半々葺いた屋根は、カヤだけの屋根の倍も長持ちすると言われていました。アシはその名の通りあまり良くないものが多いため、職人には好まれません。
稲わら、麦わら、オガラ、チョマは主に「コツラ」と呼ばれるところで使われます。「コツラ」とは軒付けのことで軒(ハグチ)の一番内側の部分のことです。これら4種類は使い分けがされていたというわけではなく、その時にあったものが使われていたようです。稲わらは現在でもよく使われます。麦わらは麦が多く栽培がなされていた時に使用されていたようで、今でも屋根には多く見られ再利用することもありますが、新しく麦わらを使うということはありません。オガラは麻の皮を剥いだ茎のことで、麻が繊維利用されていた時に使われていたようです。オガラは今でも稀に屋根で見ますが、こちらも再利用することはあっても新しく使うことはありません。チョマは「カラムシ」のことで、こちらもオガラと同様に繊維利用された後に使われていたようです。このチョマは屋根で使われていたと聞きますが、まだ見たことがありません。
それ以外に下地や押し鉾、棟には竹が使用されます。
下地には主に真竹が使用され、中には淡竹が使用されることもあります。
押しほこは、佐渡では「オサエブチ」と呼ばれます。また隅に曲げて使う押しほこを「
「マゲブチ」と呼びます。オサエブチは真竹や淡竹が使用されますが、マゲブチは特に細い真竹や淡竹が使用され、時にはメグロダケも使われています。
棟にも真竹や淡竹が使用され、稀に化粧として孟宗竹が使われることもあります。

茅刈り

佐渡では「秋刈り」と「春刈り」があったと言われています。
秋刈りは11月から雪が降るまでに行われ、春刈りは雪解けから3月終わりまで行われます。時期については「11月の葉が青い時期から刈る」や「1度霜に当たり、葉が落ちてから」、「年が超したら」など様々なことが言われています。これは島内でも気候が異なるため、その土地に適した時期に刈られていたからです。秋刈りした茅を「秋茅」、春刈りした茅を「春茅」と呼びます。秋茅と春茅では葉の付き具合が変わるのでそれぞれ適宜使用されます。
茅の単位は「ヒキ」とされていて、1ヒキは12尺(3.6m)の縄で締めた大束とされています。そして9尺(2.7m)の縄で締めたものが半ヒキとされています。ヒキとは別に「束」という単位もあり直径25~30cm程度の小束が1束とされ、15束程度で1ヒキになると言われています。佐渡の一般的な間取りと言われる間口6間奥行き4間の民家では、40ヒキ必要と言われていたそうです。

屋根葺き(葺き替え)

まず屋根を葺くにあたり足場をかけます。佐渡では屋根足場のことを「ドウチュウ」と呼びます。
次に屋根を剥ぐります。まずは棟から崩し、茅を剥ぐっていきます。この時は長柄の鎌を使い、「ツゲ」と呼ばれる稲わらで作った結束材で古い茅をまとめながら茅を剥ぐっていきます。茅を剥ぐるのは基本的にはコツラの上までになります。
その次は屋根を葺き始めます。屋根は古い茅と新しい茅を交互に使いながら屋根を葺いていきます。古い茅は適当な長さに切って使用され、新しい茅は切らずに長いままで使用されます。オサエブチは2尺(60cm)程度の間隔でつけられ茅を押さえていきます。オサエブチは「カメムクリ」や「カメノコムスビ」と呼ばれる結び方で締められます。
棟は茅を横に並べ土台を作ります。棟の形は、現在は丸が多いですが三角のところもあったようです。そして土台の上に杉皮やトタンなどの防水材をかぶせ、その上から「ミザラ」と呼ばれる竹を編んだものをかぶせます。この「ミザラ」は島内でも地域によって編む竹の加工や本数などが異なり、現在は半割竹を20本で編むこととしているが、丸竹や四つ割竹のことや、本数が7、9、13の奇数や40本のことなどの違いが見られます。そして棟下に「グシ」とよばれる竹を差し、そこから番線をとり、棟をくるみます。
棟にはミザラのほかに「バンド」や「化粧竹」などが取り付けられ豪華に飾られることもあります。
棟ができたら、最後は仕上げ作業で上からは鋏をかけて降りてきて屋根の完成です。鋏がけについては佐渡ではあまり行わず、手でゴミを搔きながら降りてくる程度の仕上げだったとも言われています。

道具

佐渡の茅葺き職人の道具は主に鋏、コテ、鎌、針、竹道具の5種類があります。
鋏は屋根を刈り揃えるために使用します。鋏は複数種類があり「ハグチ鋏」、「荒鋏」、「中鋏」、「仕上げ鋏」などの種類があり、屋根の部分によってそれぞれ使い分けていたようです。
次にコテは「テイタ」とも呼ばれ、屋根の面を叩きそろえるのに使います。コテは柄の形状に特徴があり、この形は若狭流の職人が使うものと類似しています。
次に鎌は長柄が特徴で2尺(60cm)前後あり、刃渡り5寸前後です。
針は針取りで使用されます。針取り方法が2通りあるため2種類の針があります。1つ目の針は一般的に見られるようなミシン針のようもので、本来は竹製ですが、現在では金属製のものもあります。竹針は職人によって工夫がなされ様々な形状の竹針があります。2つ目の針はカネバリと呼ばれ、先述の通り新潟の寺泊にルーツがある道具で金属製です。カネバリはなだらかな曲線の鉄筋棒の先端に返しがついた独特の形状をしています。そして針取りの際は「ハリボウ」と呼ばれるカネバリとセットで使用する道具もあり、ハリボウは縄を屋根裏に送るために使用されます。このカネバリとハリボウを駆使して1人で針取りを行います。
最後は竹道具で、これは「オコシボウ」や「グシ」などがあり、「オコシボウ」は差し茅に「グシ」は茅置きや足場として適宜使用されます。

事務局 2020/03/13